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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)215号 判決 1998年1月29日

原告

髙倉伸一

右訴訟代理人弁護士

木村達也 山崎敏彦 宇都宮健児 木村晋介 長谷川正浩

山本政明 小松陽一郎 大橋昭夫 蔵元淳 尾川雅清

椛島敏雅 永尾廣久 後藤玲子 石口俊一 伊藤誠基

加藤修 伊澤正之 山田延廣 原垣内美陽 藤本明

伊藤誠一 山本行雄 市川守弘 植田勝博 宮本平一

中村周而 釜井英法 塩沢忠和 髙橋敬 吉田耕二

村本武志 村上正巳 山口格之 武井康年 牧野聡

飯田昭 岡田栄治 戸田隆俊 河西龍太郎 水谷英夫

萩原繁之 臼井満 最上哲男 石田明義 髙崎暢

鷲見和人 佐藤むつみ 佐川京子 今重一 今瞭美

被告

株式会社レイク

右代表者代表取締役

谷口龍彦

右訴訟代理人弁護士

平田薫

主文

一  被告は原告に対し、金四五万四〇〇〇円及び内金二万六〇〇〇円に対する平成五年六月二九日から、内金二万八〇〇〇円に対する同年一二月二九日から、内金一五万円に対する平成七年一〇月三日から、内金二五万円に対する平成八年三月二八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は原告に対し、金二三〇万四〇〇〇円及び内金二万六〇〇〇円に対する平成五年六月二九日から、内金二万八〇〇〇円に対する同年一二月二九日から、内金一五万円に対する平成七年一〇月三日から、内金二一〇万円に対する平成八年三月二八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、「貸金業を営む被告の従業員が、被告の原告の母に対する貸金を回収するため、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という)の規定に違反して、支払義務のない原告に対してその支払を請求し、原告をして、必要のない借入れをさせるとともに、原告の母に対する貸金の弁済をさせた」として、被告に対し、民法七一五条に基づく損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、昭和四七年八月一四日生れの会社員である。

被告は、貸金業の登録を受けた貸金業者である。

2  清和弘子(以下「弘子」という)は、原告の母であるが、昭和六二年ころ、家出をし、平成五年八月三日、原告の父と協議離婚した(甲二、三、七)。

原告は、平成五年一月ころから、弘子と連絡が取れなくなった(原告本人)。

3  弘子は、被告(帯広支店取扱)から、平成三年三月以降一一回にわたって合計三三万二〇〇〇円を借り受け、平成五年一月まで、滞りがちながらその返済を続けてきたが、右翌月以降、返済をしなくなった。右最終返済時における弘子の残元金は、約一六万円であった(乙一一ないし一五、二二、二三、二四の1ないし10、二五の1ないし5、二六の1ないし4)。

4  助川幸次郎(以下「助川」という)は、平成元年一一月、被告に入社し、平成五年三月、帯広支店に配属となり、弘子の債権回収業務を担当するようになった。なお、同人は、平成七年三月、北見支店に転勤になった(証人助川)。

5  被告(帯広支店取扱)は原告に対し、次のとおり金員を貸し付けた。(以下、各貸付けを「本件貸付け(一)」「本件貸付け(二)」といい、併せて「本件各貸付け」という)。

(一) 平成五年六月二八日

一〇万円

(二) 平成五年一二月二八日

一〇万円

6  被告は原告から、次のとおり、弘子の前記債務につき返済を受けた(以下、各返済を「本件返済(一)」「本件返済(二)」等といい、全てを併せて「本件各返済」という)。

(一) 平成五年六月二八日

二万六〇〇〇円

(二) 平成五年一二月二八日

二万八〇〇〇円

(三) 平成六年七月二九日一万円

(四) 平成六年八月二九日一万円

(五) 平成六年九月二七日一万円

(六) 平成六年一〇月三一日

一万円

(七) 平成六年一一月二八日

一万円

(八) 平成六年一二月二九日

一万円

(九) 平成七年一月二七日一万円

(一〇) 平成七年二月二七日一万円

(一一) 平成七年三月二七日一万円

(一二) 平成七年四月二七日一万円

(一三) 平成七年五月三一日一万円

(一四) 平成七年六月三〇日一万円

(一五) 平成七年七月三一日一万円

(一六) 平成七年九月一日 一万円

(一七) 平成七年一〇月二日一万円

(一八) 合計 二〇万四〇〇〇円

二  争点

1  被告は原告に対し、民法七一五条に基づく損害賠償責任を負うか。特に、被告が原告に対し本件各貸付けをなし、原告から本件各返済を受けたことに関して、助川の原告に対する不法行為が成立するか(助川は原告に対し、本件各返済を求め、本件各貸付けを受けるよう働きかけたか。助川の右行為は、不法行為を構成するか)。

(原告の主張)

(一) 被告の従業員である助川は、原告に対し、平成五年六月二八日、「お母さんの溜まっている利息だけでも払ってくれないか」との電話を入れた。原告が、支払えないと言うと、助川は、「今払ってくれないと、債権の管理が札幌にいってしまう。そうすると、帯広でお母さんを探せなくなる」と言い、さらに「うちから一〇万円借りて下さい。その中から滞納利息の二万六〇〇〇円を支払えばいい」と言った。そこで、原告は、言われるとおりにした。

(二) 助川は原告に対し、平成五年一二月二八日、「お母さんの利息が二万八〇〇〇円くらい溜まっているので、払ってもらえないか」との電話を入れた。この時も、原告は、一度は断ったが、助川は、「うちから一〇万円借りて、払って下さい」「そうすれば、通常なら月々の支払が二万三〇〇〇円となるところを、金利を下げて二万二〇〇〇円にしてあげる」と言った。そこで、原告は、断りきれずに助川の求めに応じた。

(三) 助川は原告に対し、平成六年七月二〇日ころ、「高倉さんには、これ以上は貸せないが、お母さんの分について、月々一万円ずつ払ってくれるようお願いできないか」との電話を入れた。原告は、断ったが、助川は、「おばあさんと相談して、何とか支払ってもらえないか」と懇請した。

そこで、原告は、祖母に相談したところ、祖母が「一万円くらいなら協力できるかもしれない」と答えたので、その旨助川に伝え、前記一5(三)ないし(一七)記載のとおり、合計一五万円を返済した(右資金を出捐したのは、祖母ではなく、原告である)。

(四) 原告は、平成五年六月当時、年収が二〇〇万円程度であったが、被告に対し約三〇万円、他の貸金業者に対し合計約八〇万円の借入債務を負担していたところ、被告は、右事実を知悉しながら、原告に支払義務のない弘子の債務の返済をさせるため、原告の自発的な借入意思を確認することなく、原告にとって必要がないのに、二度にわたって融資限度額を拡大し本件各貸付けを行った。右は、貸金業法一三条(返済能力を超える貸付けの禁止等)・昭和五八年九月三〇日大蔵省銀行局長通達(蔵銀二六〇二号。以下「通達」という)第二の一(2)イ・ロ(必要とする金額以上の借入れの勧誘等の禁止、借入意思の確認)の規定に違反する。

また、原告には、弘子の借入金について支払義務がないにもかかわらず、被告が原告に対し本件各返済を求めたのは、貸金業法二一条一項(威迫等による取立ての禁止)・通達第二の三(1)ニ(支払義務のない者に対する支払請求等の禁止)の規定に違反する。

したがって、前記(一)ないし(三)の助川の行為は、原告に対する不法行為を構成するもので、被告は、その使用者責任を免れない。

(被告の主張)

(一) 被告・帯広支店の助川は、平成五年六月二五日、弘子の消息を尋ねるため、原告に電話をしたところ、原告から質問を受けたので、「利息が何カ月も滞って困っている」「今月入金がないと、債権の管理が札幌の方に移管する」と説明した。すると、原告は、弘子の借入金残額及び滞納利息額を確認の上、「近日中に、弘子に代って滞納利息を支払う」と述べた。

同月二八日の午前中、原告は、被告・帯広支店に電話をして、融資限度額を三〇万円から四〇万円に増額してほしい旨申し入れた後、同日の午後二時三〇分ころ来店し、右増額の手続を取った上、本件貸付け(一)を受け、その中から本件返済(一)をなした。

(二) 原告は、平成五年一二月二八日、被告・帯広支店に電話をして、融資限度額を五〇万円に増額してほしい旨申し入れた後、同日の午後六時ころ来店し、右増額の手続を取った上、本件貸付け(二)を受けた。その際、原告は、弘子の返済状況を確認の上、右借入金の中から本件返済(二)をなした。

(三) 原告は、平成六年七月中旬ころ、被告・帯広支店に電話をして、「弘子の借入金につき毎月一万円宛返済すると、何回くらいで完済できるか」問い合せてきた。電話に出た助川が「二年以内に完済になる」と答えると、原告は「祖母に相談して、また連絡する」と述べて、電話を切った。

同月二九日、原告は来店して、助川に対し、「祖母に相談したところ、毎月一万円程度であれば、弘子の借入金を返済してもよいと言ってくれた。祖母の住んでいる更別村まで、集金に来てくれないか」と申し向けた。助川が「更別村まで集金に行けない」と答えると、原告は「自分が祖母から一万円を預かっておくから、原告の勤務先まで集金に来てほしい」と言うので、助川は「そうさせてもらう」と答えた。原告は、その日、本件返済(三)をなした。

その後、原告は、本件返済(四)ないし(一七)をなしたが、そのうち、平成六年八月、同年一二月、平成七年三月及び同年四月の各返済は、原告が被告・帯広支店に来店して行ったもので、任意になされたことを示すものである。

(四) 以上のように、本件各貸付けや本件各返済は、すべて原告の申入れに基づくものであって、被告から原告に請求したものではない。したがって、この点に関し、被告ないし助川が貸金業法に違反したことはなく、原告から不法行為責任を問われる謂われもない。

なお、仮に貸金業法や通達に違反することがあっても、右は行政法規であるから、直ちに不法行為上違法となるわけではない。

2  原告は、被告の不法行為により、どのうような損害を受けたか。

(原告の主張)

(一) 本件各返済額

二〇万四〇〇〇円

(二) 慰謝料 二〇〇万円

(三) 弁護士費用(着手金)

一〇万円

(四) 合計 二三〇万四〇〇〇円

第三  争点に対する判断

一  前提となる事実

前記第二の一記載の事実のほか、証拠(甲二、七、乙三、五、七ないし一〇、一六、二二、二八、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  原告は、昭和六二年ころに母親の弘子が家出した後、父親及び妹と同居していたが、平成三年三月に高等学校を卒業した後、株式会社カミヤに就職し、一人暮らしを始めた。原告は、その後、同年一〇月に、株式会社東洋に転職した。

平成五年当時における原告の収入は、手取りで月収約一五万円、年収約二〇〇万円であった。

2  原告が働き始めて二か月くらいすると、弘子が、原告を訪ねてきて、お金を貸してほしいと言った。原告は、当初断ったが、弘子が執拗に懇請するため、平成三年六月ころから、父親に内密で、貸金業者から金員を借り受け弘子に融通するようになり、被告からも、同年一〇月二二日に一〇万円を借り入れたのを初めに、繰り返し金員を借り入れるようになった。

3  原告の被告からの借入れとその返済の状況は、別紙・計算書〔髙倉伸一〕記載のとおりである。

被告における原告の融資限度額は、当初一〇万円であったが、平成四年一月一四日の借入時に二〇万円に、同年九月二九日の借入時に二五万円に、平成五年一月二二日の借入時に三〇万円に、それぞれ増額された後、同年六月二八日の本件貸付け(一)の時に四〇万円に、同年一二月二八日の本件貸付け(二)の時に五〇万円に、それぞれ増額された。

4  原告の被告以外の貸金業者からの借入れの状況は、次のとおりであり、被告は、本件各貸付けの当時、右事実を知っていた。

(一) 平成五年六月二八日(本件貸付け(一)がなされた日)

三件 借入額七五万円

(二) 平成五年一二月二八日(本件貸付け(二)がなされた日)

三件 借入額九六万円

5  弘子は、平成四年末ころまでは、原告に対し返済のための金員を渡していたが、平成五年一月ころ、音信不通となった。そのため、原告は、被告からの入金がなくなり、生活が苦しくなったため、同年三月末、アパートを引き払って、父親と同居するようになった。

6  弘子の被告からの借入れとその返済の状況は、別紙・計算書〔髙倉弘子(清和弘子)〕記載のとおりである。

なお、証拠(乙二二、二九)によれば、弘子の被告に対する債務の返済として、平成六年五月三一日、銀行振込の方法で、二万三〇〇〇円が支払われていることを認めることができるが、右支払をしたのが誰であるかについては、本件全証拠によっても認定することができない。

二  争点1(被告の使用者責任)

1  まず、原告が本件各貸付けを受け、弘子の債務につき本件各返済をなしたことについて、助川による働きかけがあったか否かについて検討する。

原告は本人尋問において、「本件各貸付けや本件各返済につき、助川から働きかけを受けた」旨供述をするとともに、同旨の陳述書(甲二、七)を証拠として提出するが、他方、証人助川は、本件各貸付けや本件各返済は、原告の申入れに基づくもので、同証人の方から働きかけたことは一切ない旨証言をする。

そこで、原告の右供述及び陳述書の記載の信用性について検討するに、たしかに、本人尋問における原告の供述には、記憶の不明確なところがあり、助川から、弘子の債務を払ってくれと言われたか否かについても曖昧な部分があるが、助川からの働きかけがなければ、自発的に本件各返済をしたり本件各貸付けを申し込むことはなかったという点においては、一貫している。また、平成五年一月以降、原告は弘子と全く連絡が取れない状況にあったことに鑑みると、助川から何らの働きかけもないのに、原告の方から自発的に、弘子のために借入れをしてまで本件各返済を申し出るとは考え難い。さらに、証人助川の証言によると、被告には、顧客毎に、貸付や督促等の際のやり取りを記録した「フレンドリーカード」なる文書が存することが認められ、同証人は、証言に先立ち、弘子の「フレンドリーカード」を見てきた旨証言するところ、同証人の証言が真実ならば、右文書は、その裏付けとなる重要な証拠となるにもかかわらず、被告は、右文書を証拠として提出していないことや、被告が証拠として提出している乙一七の1ないし7、一八の1ないし24、一九の1ないし15、二〇の1ないし6、二三、二四の1ないし10、二五の1ないし12、二六の1ないし4(領収書〔控え〕兼ご利用明細書、領収書兼ご利用明細書)には、同一日における取扱いの先後関係を知ることができる伝票番号及び取扱時刻ないしは処理記号及び時刻の記入がないこと(被告は、「右記入がないのは、取扱時刻や伝票番号等に関する情報がコンピューターに入力されていないためである」旨主張するが、右情報のみが入力されていないというのは、いかにも不自然であって、右主張をそのまま信用することはできない。また、乙一八の22には、年月日欄に誤記があり、このことも、前記各書証のコンピューター情報の出力に関して何らかの工作がなされた可能性を示唆するものといえる)に鑑みると、被告は、本件各貸付けや本件各返済に関して、不利な事実を隠しているのではないかとの疑念を禁じ得ない。そうすると、証人助川の証言には、それ自体矛盾したり不合理な点は認められないが、右証言をそのまま信用することはできない。

したがって、原告の前記供述及び陳述書の記載は、基本的に信用することができるものであって、これによると、助川は、原告から弘子に対する貸金の回収を図るため、原告に対し、① 平成五年六月二八日には、本件貸付け(一)を受けて本件返済(一)をなすよう、②同年一二月二八日には、本件貸付け(二)を受けて本件返済(二)をなすよう、③平成六年七月中ころには、本件返済(三)ないし(一七)をなすよう、それぞれ働きかけ、右各働きかけにおいて、原告から難色を示されると、右①ないし③の働きかけにおいて「今払ってくれないと、債権の管理が札幌にいってしまい、帯広でお母さんを探せなくなる」等と、②の働きかけにおいて「通常なら月々の支払が二万三〇〇〇円となるところを、金利を下げて二万二〇〇〇円にしてあげる」等と、③の働きかけにおいては「おばあさんと相談してもらえないか」「平成七年一一月まで毎月一万円ずつ払ってくれれば、残額は免除する」等と申し述べ、原告の了解を得たと認めることができる。

2  次に、助川の右行為が不法行為を構成するか否かについて検討する。

前記1認定の助川の働きかけが、欺罔や威迫を伴ったり、原告を困惑させたものであったと認めるに足りる証拠はない。また、原告が本人尋問において「助川からはっきりと払ってくれと言われたかどうかは分からない」旨供述していることに鑑みると、助川の働きかけは、言葉としては「払ってくれれば助かる」という程度のものであった可能性を否定することはできない。

しかしながら、助川の右働きかけがなければ、原告が本件各貸付けを受け本件各返済をなすことはなかったのであるし(甲二、七、原告本人)、助川は、原告が本件各返済について難色を示したにもかかわらず、前記認定のような言辞をもって、巧みに原告を誘導し、その了解を得たものである。そうすると、助川の働きかけは、法律上支払義務のない者に対する支払請求を禁じる通達第二の三(1)ニの精神に違背するということができる。

また、本件各貸付けについても、これが貸金業法一三条が禁止する過剰貸付け(顧客の返済能力を超える貸付け)に該当するか否かはともかく、その一部を原告に支払義務のない弘子の債務の弁済に充てることを予定してなされたものであって、その勧誘は、本件各返済の働きかけと一体としてなされたものであった。そうすると、本件各貸付けは、本来不必要な金額の債務を原告に負担させたもので、その勧誘行為は、顧客の必要とする以上の金額の借入れの勧誘を禁止する通達第二の一(2)イに違背するということができる。

のみならず、前記認定の原告の収入及び負債の状況に照らせば、自らの債務を返済するのが精一杯で、法律上支払義務のない第三者の債務まで返済するだけの経済的余裕がなかったことは明らかであり、特に、本件返済(一)及び(二)については、被告から新たな借入れをしないとその資金を捻出できないような状況であった。助川は、このように原告に経済的余裕のないことを知りながら、原告に対して、義務のない本件各返済を促す働きかけをしたものであって、その行為には、社会的に容認し難いものがある。

以上のとおり、前記1認定の助川の行為は、貸金業法の規制を具体化した通達やその精神に違背し、貸金業者に国家的社会的に求められる規範を逸脱するのみならず、社会的にも容認し難いものを含むものであるから、社会的相当性を欠く行為として、不法行為を構成するというべきである。

3  そうすると、助川は、被告の被用者であり、助川の右不法行為は、被告の事業の執行につきなされたものであるから、被告は、その使用者責任を免れない。

三  争点2(原告の損害)について

1  原告は、前記認定の助川の不法行為により、被告に対し本件各返済をなし、右返済額に相当する二〇万四〇〇〇円の財産的損害を受けた。

2  また、原告は当時、複数の貸金業者に対する借財を抱えた経済的に苦しい生活をしており、そのような中、更なる借財をするなどして本件各返済の資金を捻出したものであって、右事情に鑑みると、原告は、助川の不法行為により、右財産的損害の填補を受けただけでは慰謝されない精神的苦痛を受けたというべきである。ただし、助川の原告に対する働きかけは、威迫や欺罔等原告を困惑させる言辞を伴ったものではなく、かえって、原告の供述によると、原告はその当時、助川について親切な人であるとの認識を有していたというのであるから、原告の右精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は、二〇万円と認めるのが相当である。

3  原告は、本件訴訟の提起・追行のため、相当額の弁護士費用の負担を余儀なくされたところ(弁論の全趣旨)、そのうち五万円を、助川の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

4  したがって、原告は、助川の不法行為により、合計四五万四〇〇〇円の損害を被ったと認められる。

四  以上によれば、被告は原告に対し、民法七一五条に基づく損害賠償として、四五万四〇〇〇円及びうち本件返済(一)の返済額である二万六〇〇〇円に対する右返済の日の後の日である平成五年六月二九日から、本件返済(二)の返済額である二万八〇〇〇円に対する右返済の日の後の日である同年一二月二九日から、本件返済(三)ないし(一七)の返済額である一五万円に対する右各返済の日の後の日である平成七年一〇月三日から、慰謝料及び弁護士費用である二五万円に対する不法行為の日の後の日である平成八年三月二八日(被告に対する訴状送達の日の翌日)から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よって、原告の本訴請求は、右の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官村田龍平)

別紙計算書<省略>

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